「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第4~6話の感想 Part13

 『THE BEYOND』2巻を見た感想をまとめました。

 

・総士の言葉

総士「一騎、よせ、一騎」
『EXODUS』22話

 一騎は総士の言葉には耳を貸すことなく、相打ちという形でアビエイターを一人で倒した。結局のところ、一騎はマークザインから降りるまで、最後までこの考えを捨てることができなかった。

総士「一人で戦うというのか。
   それがどれほど馬鹿げたことがわかってるのか」
一騎「マークザインなら無理じゃないはずだ」
ドラマCD『NOW HERE』

 一騎が竜宮島ミールの祝福を受け、生と死の循環を超える命を与えられ、存在と痛みを調和させる者になった。

真壁一騎
ファフナーに乗ると「無限のクロッシング」であらゆる者の痛みを背負ってしまうため、戦うために眠りにつく(存在と痛みを調和する)。
『THE BEYOND』第1~3話パンフレット

 存在と痛みを調和させる者となった一騎はアルヴィスの中に住み、戦闘後、フラッシュバックと戦っていた総士の姿と重なる。

 

総士「お前たちの痛み、忘れはしない」
一期18話

 

 一騎はマークザインを美羽に譲り、エインヘリヤル・モデルのファフナーに乗るようになった結果、特別な存在でなくなり、竜宮島に属するファフナー・パイロットの一人になった。第四次蒼穹作戦で一騎はマークザインに乗っていた時と同じくように最初から全力で戦った結果、戦闘が終わる前に力が尽き、戦線を離脱。敵に機体を奪われてしまった。この時、一騎はやっと総士の言葉の意味を理解したのではないだろうか。

総士「ダメだ、力を温存しろ」
『EXODUS』12話

 第四次蒼穹作戦後の一騎の心境は以下の言葉で表現できるだろう。

総士「僕一人では戦えない」
ドラマCD『NOW HERE』

 その結果、偽竜宮島からこそうし救出する時、こそうしを連れ出すことのみに専念し、偽竜宮島の破壊は甲洋と操に任せた。一騎はこそうしを安全な空母ボレアリオスの甲板に運び、仲間にこそうしの身を委ねた後、眠りについた。

一騎「総士を頼む」
『THE BEYOND』3話

 一騎は第四次蒼穹作戦での失敗を糧に、力を温存してこそうしの救出と機体を味方の陣地まで戻すという二つの目標をクリアした。一騎は「最後の切り札」という自分の役割を完全に理解した故に、以下のような言葉が出てきたのだろう。

溝口「また暴れたらどうする」
一騎「俺が止める。
   そのための強い器がほしい」
『THE BEYOND』6話

 

・銃で脅す

 一騎に左目を傷つけられた後、総士から一騎との距離を開けた。

【皆城総士・左目の傷】
真壁一騎と疎遠になったのも「自分がまた真壁一騎と同化したくなるのが怖かった」から。
ファフ辞苑9

 フェストゥムとの戦いが始まった後、総士から友人との距離を開けた。

総士「あまり、関わらない方がいい」
一騎「総士」
総士「もう友達のままではいられないんだ」
一期5話

 

 真矢はマークニヒトで海神島を攻撃したこそうしを銃で脅して叱った。

真矢「覚えときなさい。
   もしまたファフナーで私たちを襲ったら、
   私があなたを撃つ」
『THE BEYOND』4話

 真矢は目の前にいる14歳のこそうしに対して、2歳まで海神島にいたこそうしと同じ態度、言動を取ってしまうことを恐れ、いざというときは人を殺すことさえ厭わない冷酷なパイロットリーダーを演じることを選んだのではないだろうか。その結果、真矢とこそうしとの関係はパイロットリーダーとパイロット候補生になった。

 一期の総士=『THE BEYOND』の真矢であることから、『THE BEYOND』の真矢の心情を理解するヒントは一期の総士の中にある。

皆城総士
でも、実は情にもろいところがあって、冷たくしないと耐えられないんですね。
冲方丁に聞く 蔵出しTALK  蒼穹のファフナーキャラ誕秘話(※1

 『THE BEYOND』の真矢は一期の総士と同じく「こそうしから冷たくしてもらわないと耐えられない」ということなのではないだろうか。

 

・こそうしの精神年齢

 彗は里奈にお尻を見ていることを指摘された直後、横を向いた。しかし、その直後、彗は横目で里奈のお尻を見てしまった。

里奈「あと、いちいちあたしのお尻なんか気にしないの」
 彗「す、すいません」
『EXODUS』25話

 

 こそうしは真矢の下着姿を見た後、横を向いて目をつぶった。その後、真矢を見ることはなく、後ろを向いて階段の近くまで後退した。

 彗は里奈に突っ込まれたものの、彗は己の欲望には勝てず、こっそり里奈の体を見続けていた。一方、こそうしは女性の無防備な下着姿を見て気まずくなり、後ろを向いてしまった。この時、彗とこそうしはともに14歳だが、彗が年齢相応の態度であるのに対して、こそうしは年齢に比べると幼いということになる。この後、こそうしは真矢と一緒にファフナーのシミュレーション訓練を行行うことになった。その時、こそうしは目の前にいるシナジェティックスーツ姿の真矢の体から目を背けるのではなく、じっと見つめていた。

 

・真矢と総士、こそうしの間の距離

 『EXODUS』2話、戦闘終了後、総士と剣司のいる部屋にシャツの前を開けた姿の真矢が入ってきた。

 ここでは真矢が総士に近づくという形だったが、総士はその場から動かなかった。

 

 朝、1階に降りると、前を開けたシャツ姿の真矢がこそうしの前に現れ、朝のあいさつをした。

  真矢「おはよう」
こそうし「おはようございます」
『THE BEYOND』5話

 こそうしは真矢にあいさつをした後、後ろを向いて下がってしまった。

 真矢は総士とこそうしの前に同じような格好をして立ち、同じような態度を取っていることから、真矢には総士、こそうしの距離感は全く同じということになる。しかし、こそうしには総士と真矢の間にある距離は近すぎると感じたため、下がってしまった。

 

・愛と性

 暉「俺、総士先輩みたいに譲る気はないです」
『EXODUS』21話

 、総士は海辺で一騎と真矢が二人きりで話している様子を見た時、総士は真矢が好きなのは自分ではなく、一騎であることを受け入れた。しかし、総士にとって真矢が大切な存在であることに変わりはなく、新国連の捕虜になった真矢をダーウィン基地まで迎えに行った。

 真矢は新国連の捕虜という立場から開放された直後、総士にこう言った。

真矢「今止めないとみんないなくなる」
『EXODUS』23話

 この一言で真矢の真意を悟った総士は真矢を助けるためにあらゆる努力をした。

総士「やめろ、遠見。
   こいつを倒して、交戦規定とやらを撤回させる」

総士「やめろ、遠見。
   敵は消えた」
『EXODUS』23話

 この時、総士の気持ちを言葉にすると「なんとか真矢を守りたい、真矢を失いたくない」だろう。つまり、総士は “恋” を断念した先にある “愛” を知ったということになる。総士にとって真矢とは、”愛” を教えてくれた人だったのだ。

 

 偽竜宮島にいた住人は家族も含め、全員フェストゥムだったことから、こそうしはこの時、初めて人間の女性の体を見たのではないだろうか。

 だが、総士は真矢の体を見た後、目を閉じ、横を向いてしまった(※2)。

 この後、真矢とファフナーのシミュレーション訓練を行った時、シナジェティック・スーツ姿の真矢の体を興味津々といった表情で見ていた。

 一騎が「人間」、総士が「フェストゥム」を象徴していることから(※3)、真矢はフェストゥムが初めて出会う「人間の女性」の象徴しているのはないだろうか。真矢は総士に “愛” を教え、こそうしに “女性” を教えるという役割を担っているのではないだろうか。総士と真矢の関係は「真矢の恋愛対象は総士ではなかった」ことから、こそうしと真矢の関係は「こそうしの恋愛対象では真矢ではない」となるのではないだろうか。

 

 

※1 『Charada ! (きゃらだ) 』Vol.1(2006年、宙出版)より引用。

※2 ワーグナーの楽劇『ジークフリート』第3幕第3場には、ジークフリートが岩山に眠る人間(ブリュンヒルデ)の胸甲を外すと女性の胸が見えたため、後ずさり「男ではない!」と叫ぶシーンがあります。

※3 『蒼穹のファフナー Blu-ray BOX』のブックレットで冲方丁が「一騎と総士の関係が、上手くフェストゥムと人類の関係になっています」と発言している。