「蒼穹のファフナー」から「HEAVEN AND EARTH」の感想(「THE BEYOND」のネタバレあり)

 一期1話から『HEAVEN AND EARTH』までを見直した時の感想。『THE BEYOND』第1~3話のネタバレが含まれています。

 

・一期1話

公蔵「今朝の便で戻ったのか、総士」
総士「はい、CDCで報告書を入力していて、遅くなりました」

総士「一騎は」
真矢「授業が終わった途端、近藤君と出てったわ」
一期1話

 総士は公蔵に学校に来るのが遅くなったと説明しているものの、時間経過がわかりにくいため、早朝、船で竜宮島に戻ってCDCで報告書を書き、教室に入ったのは始業直前だと勘違いしやすい脚本と演出になっている。真矢の「授業が終わった途端」という台詞から総士が教室に顔を出したのは放課後ということなのだろう。一方、『THE BEYOND』2話ではこそうしが無線機からの声を聞いたのは早朝、一騎がこそうしの通っている学校を訪れたのは昼、夏祭りは夜とはっきり時間経過がわかるような脚本と演出になっていた。

 

 蒼穹のファフナー THE BEYOND 第1~3話の感想 Part8/島の外の世界 を書いた直後に見たということもあり、一期1話から『THE BEYOND』2話までの間に10年という時間が流れていることを実感。世界は半世紀近く戦争状態にあるため、フェストゥムが地球に現れる前の世界を知っている人間はごくわずか。

 

 フェストゥムが襲来するまで、竜宮島に住む主人公が住んでいる世界は日本が存在し、竜宮島だけでなく外の世界も平和だった。つまり、主人公が住んでいる世界と視聴者の世界は同じであるため、近未来の物語であってもとっつきやすかった。一方、『THE BEYOND』の主人公が住んでいる世界は島の中だけが平和で島の外では人間同士が戦い続けていた。しかし、『THE BEYOND』の主人公が住んでいる世界は一期1話でフェストゥム襲来後の竜宮島が置かれている世界と同じなので、一期からファフナーを知っている視聴者にとっては見慣れた世界なのでとっつきやすい。

 

 一期1話では「人間がファフナーに乗ってフェストゥムと戦う」という構図だったが、『THE BEYOND』2話では「フェストゥムの力を持つ人間がフェストゥムと戦う」と「フェストゥムが人間が作ったファフナーに乗って人間と戦う」となっているあたりから時間の経過を感じる。

 

 一期1話では防衛、『THE BEYOND』2話では攻撃と立場が変われど、一騎の役割は物語の開始時に戦うことだった。『THE BEYOND』の一騎は里奈と同じようにファフナーに乗っていない時は眠っているので、一騎は戦うだけの人生になってしまった。

 

・一期2話

 『THE BEYOND』の甲洋は一期で翔子にかなわぬ想いを寄せる甲洋とは結びつかず、ノベライズで描かれた甲洋(一騎に親や卒業後のことを話し、ペアを組んだ一騎に翔子を託した)が大人になったと言われる方が納得できる。一騎、翔子、甲洋のすれ違いの恋愛は平和な日常の姿として描かれたと見るべきなのだろう。

 

・一期3話

 赤紙を配るシーンを見て、一期のパイロットのうち、『THE BEYOND』で親と子の両方が生き残っているのは一騎と真矢の二人ということに気がついた。(甲洋の育ての親は退島した後、消息不明)真矢は一期3話の時点で新国連にいた父、ミツヒロと再会したが、一期23話で亡くなっていることを考えると、一期から親子のどちらも欠けていないのは一騎だけということになる。

 

・一期9話

 一期9話で一騎は甲洋の手を取ったが、その手はフェストゥムによって切断され、竜宮島につれて帰ることはできなかった。

 一期26話で一騎は総士を救出し、奪われまいとジークフリードシステムを同化したが、竜宮島にたどり着く前にジークフリードシステムは砕け散ってしまった。

 『THE BEYOND』1話、アルヴィスはマリスにさらわれたこそうしの救出作戦を実行。一騎はこそうしの救出を美羽に託したが、美羽は発射されたロケットを見送ることしかできず、手さえ届かなかった。

 それから3年後、一騎は偽竜宮島でこそうしと再会したが、こそうしをとりもどそうとフェストゥムが攻撃した時、一騎は総士を守るように抱えた。

 

・一期10話

一騎「このまま戦うことに慣れていくのが怖いんだ。
   自分はなにか別のものに変わっちまうような気がして」
一期10話

 一騎は日常が平和な世界から日常が戦いの世界に変わることを恐れていた。だが、総士を理解するために、島の外の世界、つまり日常が戦いの世界を見に行くことを選んだ。

洋治「私の元にくれば戦うこと以外の道を見せてやれるかもしれない」
一騎「戦う以外の道」
一期13話

 戦いが日常になってしまった世界を見た一騎にとって極めて魅力的な言葉であり、ミョルニアを介してマークザインを手にとり、一騎は変わることを選んだ。

一騎「世界を導く者たちを、対話の力を守ろう」
『EXODUS』21話

 「守る」ということは、戦えない者の代わりに一騎が戦うことを意味する。一騎は竜宮島のミールとの調和を選んだ結果、戦うだけの人生になってしまったも同然なので、一期10話で一騎が感じた予感は正しかったということなのだろう。

 

・一期15話

バーンズ「お前たちが持ってるおもちゃを欲しがっている者がいてな。
     ぜひ譲ってほしい」
  史彦「やはりコアか」
一期14話

 史彦は新国連(というかミツヒロ)が竜宮島のコアを欲しがっていることを知っていたので、ベノンが元海神島のコアで、その後、新国連に利用されていたと知ってもあまり驚かないのではないだろうか。

 

・一期17話

乙姫「家族みんなで、暮らしたいな」
一期17話

 『THE BEYOND』2話を見た後だと、この台詞すら心に突き刺さる。

 

・一期24話

ミョルニア「お前たちがジークフリードシステムと呼ぶものだ」
   史彦「なに」
ミョルニア「ミールはお前たちの力を手に入れようとしたが
      我々にあれは使用できない」
一期24話

 一期から7年後が舞台の『THE BEYOND』1話を見ると、フェストゥムはジークフリードシステムを理解してしまったことがわかる。

 

・HEAVEN AND EARTH

 来主操はマークニヒトに攻撃してきたマークフィアの機体をワームスフィアですべて消した後、コアに姿を変えた甲洋も攻撃しようとした。カノンが未来を引き寄せたことで甲洋は人間の姿を取り戻し、『HEAVEN AND EARTH』で戦ったボレアリオス・ミールのコアと再会した。

操「君はあまり好きじゃない。
  前のコアと戦ったからかな。
  ねえ、君は他の場所へ行きなよ」
『EXODUS』23話

 この時、甲洋はボレアリオス・ミールのコアである来主操からあまりよく思われていなかったが、それから5年後、『THE BEYOND』第4~6話PVでは通常時におそらく甲洋がマスターだと思われる海神島の喫茶店で一緒に過ごす姿が描かれていた。

 かつて自分を消そうとした操と甲洋が一緒にいる姿は竜宮島とボレアリオス・ミールが和解した証そのものである。

 

 総士が肉体を取り戻してこの世界に帰ってきた時、最初にやったことは人類軍の核攻撃から一騎が乗っているマークザインを守ることだった。

マークザインとマークニヒト

 一期ではファフナーに乗れない総士にとって一騎は自分の代わりにファフナーに乗って戦う人であったため、一騎が総士に対して反抗的な態度を取ったとしても総士は一騎をかばい、総士自身がファフナーに乗った後も最後まで一騎を守り続けた。

 『EXODUS』でいなくなった総士が生まれ変わったことで、一騎と総士の立場は逆転した。総士は一騎がファフナーのパイロットになった後、いかなる状況であっても一騎をかばい、守っていたことを考えると、一騎はこそうしから「殺してやる」と言われたとしても、こそうしを守り続けるのだろう。一騎が外の世界を見て総士を理解した後、嬉しかった総士は涙したが、こそうしが一騎という存在を受け入れた時、感情を失いつつある一騎おそらく嬉しいと感じることなく、涙を流すこともないのだろう。

 

史彦「美羽くんもまた日常的にクロッシング状態にある」
『HEAVEN AND EARTH』

剣司「竜宮島のミールとクロッシングできる可能性があった」
『THE BEYOND』3話

 美羽と同じようにもこそうしも竜宮島のミールとクロッシングできる可能性があったと言われていたが、『HEAVEN AND EARTH』のBDのブックレットに以下のような一文がある。

「自ら同化を望んだ二人目の人間」である総士が、再び人間として、弓子の子供と同等の存在となって復活することへの予兆。
冲方丁作成 初期プロットまるごと掲載

 この設定は『HEAVEN AND EARTH』で体を取り戻して戻ってきた総士では使われず、こそうしに転用されたのではないだろうか。